「アンザックビスケット」って聞いたことありますか?
オーストラリア名物といってもいいほど、オージーに愛されるクッキー(ビスケット)なんですよ。
ANZACというのはオーストラリア、ニュージーランドの兵士だちのこと。
アンザックの名を冠したアンザックビスケットには、戦争の追悼と関わる思いがここもっています。
この記事では、アンザックビスケットとは?その由来は?という興味に、面白いエピソードも交えて答えていきます!
目次
そもそもANZACってなに?

Australia and New Zealand Army Corps.の頭文字をとった略で、「オーストラリア・ニュージーランド軍団」のことを指します。
特に、第一次世界大戦において、もっとも熾烈な戦いのひとつであったガリポリの戦いに参加した兵士たちをANZACsと呼びます。
この戦いは、連合国側が多くの損害を出し、撤退を余儀なくされるほど激しく、オーストラリア・ニュージーランド軍団にとって初めての本格的な海外遠征でした。
また、このガリポリの戦いに参加したことでオーストラリアが本質的に独立した国であるという存在感を示すことができたのです。
そのため、イギリスから独立したあともその影響を付け続けたオーストラリアという国にとって、この戦いはとても意味のあるものだったのです。
ガリポリに上陸した1915年4月25日にちなんで、毎年4月25日をANZAC Dayとすることが定められました。
その後、第二次世界大戦以降は、ANZAC Dayは戦争に参加したすべての兵士たちのための記念日となりました。
ANZACの意味も、正確には1914年から1918年にオーストラリア・ニュージーランド軍団に参加した兵士たちを指しますが、今ではより広く「オーストラリア・ニュージーランドの軍に所属する兵士たち」のことを意味することがあるようです。
アンザックビスケットはどんなもの?味は?

オーストラリア国民にとって思いの詰まった国民食ビスケット
Anzacを冠する名前から想像できるとおり、第一次世界大戦中のANZAC(オーストラリア・ニュージーランド軍団)と関連したクッキーです。
オーストラリア、ニュージーランドで国民的ビスケットといってもいいほど人気があります。
(ビスケットはクッキーのイギリス英語。※クッキーはアメリカ英語)
大手のスーパーでも通年を通して、焼き立てアンザックビスケットを購入することができますが、毎年4月25日のAnzacデーが近づいてくるとより多くの種類が発売されます。
アンザックビスケットがオーストラリア人にとってどこか「故郷の味」的な存在なんだなぁと感じた個人的な思い出があります。
私が初めてオーストラリアに引っ越すことになったときに、オーストラリア訛りをマスターするため、渡航前にオージーの英会話の先生をつけていました。
少し田舎の地域の出身の先生で、10年以上オーストラリアには帰っていないと言っていて、レッスン中も「オーストラリアは閉鎖的な社会で居心地悪い」とか母国の愚痴を容赦なく織り交ぜてくるような方でした(苦笑)
出身地のラグビーチームを応援しないと変だと思われる
この地域出身なら、このビールが好きみたいな決まりごとが窮屈
友達同士も連帯感があっていいけど、拘束されて、ほんとにめんどくさい
これはこの先生の母国への愚痴の一例にすぎません(笑)
よっぽど母国の社会が合わなかったんでしょうね・・・・
そして、ひと通りのレッスンを終え私がオーストラリアに渡航した後、数か月で一時帰国しました。
そのとき、その先生ともう一度レッスンで再会する機会がありました。
わたしは一時帰国前にアンザックビスケットをオーストラリアのスーパーで購入してお土産として日本に持ち帰っていました。
そのオージーの英語の先生にとっても、アンザックビスケットは懐かしいんじゃないかなと思い、ビスケットを持って行って、レッスン中先生と話しながら一緒に食べました。
残ったビスケットは、先生に持ち帰ってもらいました。
数日後、その先生からこんなメッセージが送られてきました。
実はあの日二日酔いですごくつらかったんだけど、アンザックビスケットを2-3枚食べたらすっかり治った。
ずっと帰ってなかったけど、オーストラリアに帰ってみようかな。
(アンザック・ビスケットをお土産に選ぶという)君ならきっとオーストラリアで僕よりうまくやれると思う。
なぬーーー!?
あんなに母国の愚痴を言いまくっていたのに、「オーストラリアに帰ってみようかな」だって!?
愛郷心を起こさせるアンザックビスケットはやはり国民食のひとつと言ってもいい存在なんだな、と実感しました。
ビスケットの味はどんなものか
素朴でじゅわっと味が染みる、シンプルな味です。
シナモンやバニラなどの風味が加えられることもなく、100年前のレシピを今も大切に守っています。
主な材料として押しオート麦、小麦、砂糖、バター、ゴールデンシロップ、重曹が使われていて、ココナッツフレークを加えることもあります。
シンプルな材料からも、素朴で飽きのこない味であることが簡単に想像できますよね♪
ちなみに、食感は大きく分けて2パターンあります。
- ちょっと歯ごたえがあってじわっと味が染みるようなもの
- カリッとした質感のもの
ColesやWoolworthといった大手スーパーでも常に焼き立てアンザック・ビスケットを販売しているのですが、どちらのアンザック・ビスケットも少し歯ごたえがあってじわっと味の染みるタイプであることから、このタイプの方がメジャーだと言えます。
個人的には「カリっと」したタイプが一番好みです。
チューイータイプの方が心なしか甘みが強く、口の中にいつまでも余韻が残る感じがします。
ちょっと甘すぎるように思っちゃうんですよね。
(でも美味しくて止まらないのはなぜ・・・・?)
カリっとしたタイプの方が、よりさっぱりと楽しめると思います。
でも、アンザックデーのころじゃないと、カリっとしたタイプのアンザックビスケットってなかなか売ってないんですよね。
アンザックビスケットが種類多く出回るのはANZACデーの1か月ほど前から。
そのころになるとカリっとしたタイプのビスケットも見つけやすくなります。
実はカリっとしたアンザックビスケットが楽しみで、その時期をとても楽しみにしています。
デザインの凝った缶入りのビスケットも売り出されるので、それも楽しみのひとつです。

2021年のANZACデーは、この写真のアンザックビスケットを買ったんです。
オーストラリアの首都、キャンベラにある戦争記念館をイラストにあしらった缶に惹かれてジャケ買いならぬ、「缶買い」したのですが、
ビスケットがカリっとサクサクタイプで当たりでした!
アンザックビスケットの起源は?

アンザックビスケットは、「ANZAC」の名を冠しているだけあり、戦争にその起源があります。
一般的に知られている起源は「兵士の妻たちが、戦地にいる夫に送ったもの」とされていますが、実は色んな説やエピソードがあるのでご紹介していきます。
アンザックビスケットの前身と言われる食料とは?
実はアンザック・ビスケットにはその前身と言われる食料があります。
Anzac Tile(アンザック・タイル) またはAnzac Wafer(アンザック・ウェイファー)と呼ばれる食料で、とても固くて食べづらいものだったようです。
第一次世界大戦中に兵士に配給されたのが始まりで、当初は甘くない、塩味のある食料だったようです。
「固くて食べづらい、甘くなくて塩味がある」と聞くと、ついおせんべいみたいなものかな・・・?と想像しちゃうのですが
その食べづらさは想像以上らしく、面白エピソードが残っています。
そもそもなんで食べづらいほど固く焼かれたのかについては、戦時中という背景が大きくかかわっているようです。
卵が入手しにくくなっていため、レシピに工夫がされました。
卵の代わりにバター、ゴールデンシロップ、重曹を膨張剤として用いたために、とても硬く焼きあがったんだそうです。
卵を使わないおかげで、何か月も保存できるという良さも得ることができた半面、
硬すぎて食べるのにはひと苦労で、兵士たちの間では様々な工夫がこらされたそうです。
大体の工夫は
- 水につけてふやかす
- 砕いたものを水に入れてポリッジのようにしたものにジャムを加える
など主に水分を加える系の工夫が多かったみたいです。
が、中には工夫が行き過ぎて、クリエイティブ方向に血迷ってしまった兵士もいたそうです。
その硬さを利用してペンの代わりに使って文字を書いたり、
ビスケットをカードそのものに見立てて手紙を書いて家族に郵便で送ったりする人もいたようです。
オーストラリア人のそういう大真面目にジョークを実践するところ、大好きです!
現代のアンザックビスケットの起源諸説
そして、今のアンザックビスケットのような甘いクッキーになった起源は一般的に下記のように言われています。
第一次世界大戦中に、兵士の妻たちが長持ちするレシピでクッキーを作って戦地の夫に送ったものが直接的な起源
また、こんな別の説もあります。
兵士にクッキーを送ったのではなく、オーストラリア・ニュージーランドの本国に残った人たちが戦争基金のために、このクッキーを家で作って売っていたもの
どちらの説も確固たる証拠はないようですが、文献を読み解いていくと
「第一次世界大戦中、兵士たちにホームメイドクッキーが送られてくることがあった」との記録が残っていることから、前者の説の方が有力とされています。
一般に言われている説が、結局は正しいっていうことですね。
アンザックビスケットのレシピはどれくらい古いの?
アンザックビスケットの由来が、第一世界大戦中に兵士たちに送られたクッキーだということは、そのころが起源なのは間違いありません。
でも、実際にいつから「アンザックビスケット」と呼ばれるようになったのかが気になって調べてみました。
一番古い記録では、1919年の終わりから1920年代の初め頃に書かれたとされるレシピがアデレードで見つかっていて、これが今のところは歴史上で初めて「アンザックビスケット」と明記された一番古いレシピだとされています。
また、現代のアンザック・ビスケットのレシピに一番近いものは、
1919年にニュージーランドでANZAC Crispies(アンザック・クリスピーズ)という名前で書かれたレシピだそうです。
今のところ見つかっている記録をもとに、1919年に「アンザックビスケット」という呼び名とレシピが確立されたと言えますね。
第一次世界大戦が終戦したのは1918年のことですから、
戦時中に兵士たちに送られたビスケットのレシピが徐々に広がっていき
第一次世界大戦後に今のレシピとほぼ同じようなものが確立された
ということですね。
つまり、もう100年以上引き継がれてきた歴史あるビスケットだと思うと感慨深いですね。
アンザックビスケットにつまった思い
「ANZAC」という名称は気軽に使うことができません。
オーストラリアでは、Anzacという名称の使用についての法律が定められていて、使用する際は退役軍人大臣に許可をもらわないといけないことになっています。
特に商用目的で使用しているいて、違反があると、厳しく取り締まられるそうです。
それほどANZACという言葉には重みがあるのですね。
ただ「アンザックビスケット」に使う場合は、ANZACの名称の使用の許可を取らずに使ってもいいという例外が認められています。
でも、この例外を適用するには2つの条件が課せられています。
- 基本的にはオリジナルのレシピに従っていること(大きなアレンジを加えていないこと)
- 「クッキー」という単語と一緒に使ってはいけない、必ず「アンザック・ビスケット」とすること。
国の誇りと、激しい戦いに参加した兵士たちへの尊敬と強い思いを感じるルールですよね。
オリジナルのレシピもこうやって守られてきたんですね。
アンザックビスケットの由来を知れば、特別な思いがつまったビスケットであるということも納得してしまいます。
第一次世界大戦について、より詳しく知ると、より一層どんな時代背景でこのビスケットが生まれてきたかが分かると思います。
こちらの書籍がキンドル版もあって、手頃でおすすめです。
まとめ
アンザックビスケットについて、その起源やエピソードをご紹介しました。
実は100年以上大事に守られてきたレシピだなんて、意外で驚きました。
でもその由来も知れば、このアンザックビスケットに詰まったオーストラリア国民の思いの強さも理解できました。
熾烈だったガリポリの戦いがオーストラリアにとって重要な意味があったか、ANZACが国にとって大事になものかというのも垣間見ることができ、オーストラリアに住むひとりとしてとても感慨深いものがあります。
また、前身となった食料のエピソードなども知り、100年前からずっと変わらない陽気でどんなときもポジティブなオージーの姿も想像できて、嬉しくなりました。
アンザックビスケットはまさに国民食のひとつと言っていいと思いました。
今度、アンザックビスケットを食べるときは、そんな背景にも思いを馳せながら頂こうと思います。
この記事を読んでくださった皆様も、また違った思いでアンザックビスケットを楽しんでいただけるようになったら嬉しいです♪